Interview
「学校英語」を「実務翻訳の技術」に変える

メディア総合研究所の翻訳者育成スクールであるMRI語学教育センターでは、翻訳の仕事に直結した指導を行っている。「最近は特に情報セキュリティ、コンプライアンス、企業の株主・投資家向け情報(IR)など、社会の変化に即した翻訳の需要が増えつつあり、登録翻訳者は不足している状態です。当スクールで学ぶことで、修了後にすぐプロとして活躍するだけの力をつけてほしいと考えています」と、スクール担当者の鈴木佐和子さんは言う。
講座は通信講座が主体。「基礎から学ぶ実務翻訳」では、さまざまな分野に共通した翻訳スキルを身に付け、「学校英語」を「実務翻訳の技術」に変えていく。Step 1(実践)からは「IT・コンピュータ」「契約・法務」「ビジネス・経済」「環境・自然科学」「医学・薬学」などの分野を選択し、その分野にまつわる翻訳技術や専門知識、用語を学ぶ。
Step 2(プロ)では訳文をプロレベルにブラッシュアップ。現在、実務翻訳の世界ではクラウド環境で翻訳作業を行う「翻訳支援ツール」がほぼ欠かせないものとなっているが、Step 2では各受講生にPhrase TMSという「翻訳支援ツール」のアカウントが用意され、実際に在宅翻訳者となったときに近い環境の中で学習を進める。
基礎講座では英日・日英両方の翻訳を学び、Step 1とStep 2ではどちらかを選択することができるが、鈴木さんによると、「現在、日英の翻訳の需要が多く翻訳者が不足する傾向にあるため、日英を学ぶと仕事につながりやすいかもしれません」とのことだ。
課題は設定された期間内で自分の都合のよいときに提出すればよく、仕事で忙しい人にも続けやすいシステムだ。添削は土日祝を除く中5日程度で返ってくる。基礎からStep 2の修了まで、おおむね1年半から2年程度を見ておくといいだろう。
ムダがなく引き締まった、洗練された訳文を書く

通信講座の添削を手がけ、セミナーの講師なども務める高橋直行先生は、「プロの翻訳者になるには、飛び抜けた能力が必要というわけではなく、勉強をコツコツと続ける姿勢が肝心です」と話す。「たくさんの翻訳をこなすと、次第にその量が訳文の質に転化されていきます。添削をしていて、受講者の方の訳文がムダがなく引き締まった、洗練されたものになってきたと感じられるときは本当にうれしいですね」
学習開始時の英語力の目安はTOEIC550点程度と、決して高くはない。逆に自分の英語や翻訳能力にあらかじめ自信のある人は、注意したほうがいいそうだ。「自分の力を100パーセント信じてしまう人は、伸び悩むことになりかねません。訳文を何度も練り直し、『まだ足らないところがあるのでは』と調査と推敲を重ねていく人ほど力が伸びます」
「調べる」ことは、プロになっても必須の能力となる。翻訳業界では、「訳文の良し悪しの8割はリサーチ力で決まる」とも言われている。
Step 2の提出課題すべてを平均90点以上で修了すると、トライアルなどの試験を通さず、メディア総合研究所の登録翻訳者になることができる。地方在住者や海外在住者にも、自宅で基礎から学習を始めて在宅翻訳者デビューの道が開けることになる。
「プロになっても勉強が欠かせない職業です。長く続けるには、自分が興味を引かれる分野を選び、楽しみながら学ぶことが大事。クライアントから指名が来たり、自分の訳文がウェブや雑誌で公開されたりすると、いい励みになります」
最近はAIによる自動翻訳も盛んになっている。「情報漏洩のリスクがあるため、翻訳者が自己判断で無料の自動翻訳を利用することはできないのですが、社内で自動翻訳した訳文を翻訳者さんにお渡しして訳文を仕上げていただく機会は、今後も増えていくと思います」と、鈴木さん。AIの訳文を修正するには、当然AI以上の翻訳技術が不可欠となる。今後は、地道な勉強に裏付けられた確かな翻訳技術を持つ翻訳者に対するニーズがますます高まるという。
オンラインの講座説明会やセミナーを随時開催、受講生以外が参加できるものがあるので、スクールの情報を頻繁にチェックするようにしよう。
※本インタビューは2024年時点の内容です。