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    越前先生の「この英語、訳せない!」

【連載コラム 第35回】
越前先生の「この英語、訳せない!」

ビシッと決まる訳語の裏には翻訳家の人知れぬ苦労があります。
名翻訳家の仕事と思考のプロセスを追体験できる、珠玉の翻訳エッセイ。

弁護士には何種類もある

警察関係の役職と並んで、訳しづらいことばが多いのが、裁判・検察・弁護士などの法曹関係です。
 
まず思いつくのが、法律事務所のpartnerとassociate。大ざっぱに言うと、partnerはその事務所の共同経営者である弁護士で、associateは雇用されている弁護士です。associateも正規の弁護士として仕事をしているので、「助手」ではありません。日本の法律事務所では「ボス弁」「 イソ弁(居候する弁護士)」という俗称で呼ばれることがありますが、まさかそんなふうに訳すわけにもいかず、かつて自分はそれぞれを「出資弁護士」「 所属弁護士」と訳したことがあります。最近は海外の法廷ドラマを観る人が増えたこともあり、法律事務所のサイトなどではそのまま「パートナー」「 アソシエイト」と表記していることが多いようです。
 
つぎに思いつくのが、イギリスのbarristerとsolicitor。これは日本にはない区別で、それぞれ「法廷弁護士」「 事務弁護士」と訳されます。前者は法廷で弁論をおこなう弁護士、後者は依頼人とのやりとりや裁判に至る諸手続をおこなう弁護士です。ただし、下級裁判所ではsolicitorが法廷に立つことも多いので、そういう場合は単に「弁護士」と訳すほうが安全です。
 
そのほか、イギリスでは警察官が私人として訴追するのがルールであるとか、そもそも日本で言うところの「検察」に相当するものは厳密には存在しないとか、弁護側も訴追側もともに勅選弁護士(King’s CounselまたはQueen’s Counsel)が代表するとか、ややこしい問題がたくさんあるのですが、これらは専門的になりすぎるので、興味のある人は自分で調べてください。
 
一般的な話にもどりましょう。「弁護士」を英語で言うとき、多くの人はlawyerという語を思いつくでしょうが、lawyerの正確な意味は検事や判事も含めた「法律家」です。これはattorneyについても同じで、lawyerはおもにイギリスで、attorneyはおもにアメリカで使われる傾向があります。

 

越前敏弥(えちぜん としや) :文芸翻訳者。1961年、石川県金沢市生まれ。東京大学文学部国文科卒。訳書『オリジン』『ダ・ヴィンチ・コード』『Yの悲劇』(KADOKAWA)、など多数。著書に『この英語、訳せない!』『「英語が読める」の9割は誤読』(ジャパンタイムズ出版)、『日本人なら必ず誤訳する英文・決定版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

 

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