【連載コラム 第26回】
越前先生の「この英語、訳せない!」
ビシッと決まる訳語の裏には翻訳家の人知れぬ苦労があります。
名翻訳家の仕事と思考のプロセスを追体験できる、珠玉の翻訳エッセイ。
driveway 「ドライブウェイ」って、 どんな道?
小説などによく出てきて、非常に訳しづらいのがこのdriveway。単にdriveと言う場合もあります。大きな邸宅やホテルなどで、外の門から建物まで車を動かしていくためのスペースや道を指すのですが、ちょっとした空間なのか、ロータリー状のものなのか、かなり長い道なのか、よくわからないことがしばしばあります。
訳語としては「車寄せ」「車まわし」「私道」などがあり、想像しうる形状によって訳語を変えるのがいいと思います。いろいろな可能性があるのでカタカナの「ドライブウェイ」のままにするのが安全だという考え方もありますが、日本語のドライブウェイは観光地などの見晴らしのよい道路を表すことも少なからずあり、あまりにもイメージが離れているので、わたしは使いません。
highwayも困ったことばで、「高速道路」と訳したくなりますが、これはふつうの幹線道路を指します。日本のような高速道路は、イギリスではmotorway、アメリカではexpress wayやspeedwayやfreewayなどですが、州によって微妙に意味が異なるようです。

越前敏弥(えちぜん としや): :文芸翻訳者。1961年、石川県金沢市生まれ。東京大学文学部国文科卒。訳書『オリジン』『ダ・ヴィンチ・コード』『Yの悲劇』(KADOKAWA)、など多数。著書に『この英語、訳せない!』『「英語が読める」の9割は誤読』(ジャパンタイムズ出版)、『日本人なら必ず誤訳する英文・決定版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。