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    越前先生の「この英語、訳せない!」

【連載コラム 第25回】
越前先生の「この英語、訳せない!」

ビシッと決まる訳語の裏には翻訳家の人知れぬ苦労があります。
名翻訳家の仕事と思考のプロセスを追体験できる、珠玉の翻訳エッセイ。

commit 1 語では訳しきれない

某社の宣伝文句で「結果にコミットする」というのがありますね。むやみにカタカナ語を使うのはどうかと思いますが、commitが日本語にしづらい単語なのは事実です。
 
辞書には「委託する」「誓う」「約束する」などの訳が出ていますが、それらの行為そのものよりも、根底にある意志や態度を表すことが多く、適切な日本語がなかなか見つかりません。たとえば、“We are committed to creating and maintaining the best working environment.”というときは、「最高の労働環境を作り、保つことに真摯に取り組みます」などと訳せばいいのではないでしょうか。そう言えば、最初の宣伝の例も「本気で取り組む」と言い換えるとぴったりですね。
 
名詞のcommitmentも同様に、じっくり取り組んで成果をあげようとすることなので、日本語では無理に1語で表現しようとしないほうが賢明です。

 

越前敏弥(えちぜん としや) :文芸翻訳者。1961年、石川県金沢市生まれ。東京大学文学部国文科卒。訳書『オリジン』『ダ・ヴィンチ・コード』『Yの悲劇』(KADOKAWA)、など多数。著書に『この英語、訳せない!』『「英語が読める」の9割は誤読』(ジャパンタイムズ出版)、『日本人なら必ず誤訳する英文・決定版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

 

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