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【連載コラム 第1回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

Profile: 辛酸なめ子 漫画家・コラムニスト
Profile: 辛酸なめ子 漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。
 先日、オーストラリアのオーガニックアロマブランド、パーフェクトポーションの新製品発表会に伺い、来日していた開発者の女性とちょっと話す機会がありました。しかし、その時、私が発した英語というと「It’s nice.」「I bought this.」という簡単なコメントのみ。優しいオーストラリア人の女性はそれでもフレンドリーに接してくれて、うまく話せず動揺した私がボトルを落としてしまっても「It’s OK.」と声をかけてくれました。

 それにしても何十年も英語を学んでは挫折し、の繰り返しで、一向に上達しないのはどうしてなのでしょう。10年ほど前に書いていた「英語勉強日記」を発掘したら、今と変わらず一進一退の日々でした。

 例えば、2012年のある日は、洋画によく出てきた憧れのスマホ「BlackBerry」を導入。英単語学習アプリをインストールしたら、毎日「今日の英単語」が送られてくるようになりました。初日に来たのは「Litigious」。知らない単語だったので調べたら、意味は「訴訟好きな」で、アメリカっぽいです。別の日は「Aduous」という単語で「困難、骨の折れる仕事」という意味。あまり楽しい英単語が送られてこないので3日坊主になってしまいました。もちろん記憶の海馬には定着せず……。

 英語仕様のスマホなので、アプリも英語オンリーが多かったです。「OK!」というセレブゴシップ誌のソフトを入れてみたら、毎日セレブニュースが届くように。例えば、「Lady Gaga vomits on stage in Spain.」。レディー・ガガが体調不良のまま出たスペイン公演で、ダンサーの陰に隠れて何度か嘔吐した、という話題でした。それでもやり遂げた歌姫の矜持。ちなみに昔、私も時々吐き気に襲われる症状に悩まされていたので、「Vomit」という単語は知っていました。ヘレン・ケラーの「Water!」じゃないですが、印象的な実体験と結びついた英単語は覚えやすいです。

 そんな風に英語の勉強に使ったり、7、8年愛用したBlackBerryでしたが、一向に新機種が出る気配がないので、ついに離脱してしまいました。かつて全盛期はオバマ大統領も愛用していたのですが……。2022年にはBlackBerryのOSのサポートが終了、新製品の開発も終わってしまったようです。海外仕様の壁紙やアプリで英語圏に近付けた気分になれた貴重なスマホでした。

 海外アーティストのイベントがあると積極的に行っていた当時。ブルーノートでのヴィンセント・ギャロの公演に行ったら、「It could be so nice~ so nice~ so nice~♪」というフレーズを繰り返し歌っていて、「It」とは何か気になったのですが、最後までわからず……。ヒアリング力不足でしょうか。海外アーティストの公演に行くと、英語のMCの内容を理解した人がいちはやく笑ったりしていて、リアクションマウントが繰り広げられています。何度海外アーティストの公演に行っても、早口のネイティブ英語は聞き取れません……。

 街中で聞こえる英会話も積極的に聞き取ろうとしていたのですが、ある時、欧米人のモデル体型の女性と日本人男性が口論している場面に遭遇。慣れない土地で駅での待ち合わせがうまくいかなかったのか、彼女は「Anything I don’t know!!」と怒りをぶちまけていました。そのあと、彼に放った痛烈なセリフが「Where is your brain!?」。「あんたどこに脳があるの?」という世界で通じるディスりワードです。日本人男性は、そこまで言われてもどこか嬉しそうでした。プレイだったのでしょうか……。
 

 また、ある時は東京駅で外国人に道を尋ねられる体験が。東京駅地下で、外国人に地下鉄路線図を見せられて、「Hongo 3 chome」にはどうやって行くのか聞かれました。本郷三丁目は丸ノ内線なのでとりあえず赤い丸のマークを目指して行ってください、と言いたかったのですが、頭の中で文章にならず……。結局、「Red! Red!」「Right! Right!」と単語を連呼しました。右側の赤いマークを目指して、という意味で言ったのですが、なんとか伝わったようです。

 英語勉強日記を書き綴っていた当時、日々英語を意識して学んでいるのに、自分の語学力のなさに愕然としたのですが、恐ろしいのはそれから10年経っても状況は変わっていない、ということです。むしろ退化しているような……。コロナのせいばかりにしてはいけませんが、日本から海外の観光客の姿が消えて、海外旅行にもしばらく行けなくなってしまい、英会話の機会が激減。英語を学ぶモチベーションも低下してしまったようです。
 
 そしてまた振り出しに戻り、久しぶりに海外の方と話す機会に恵まれたのに、簡単な言葉しか発することができず、自信を失ってしまいました。そうするとますます声が小さくなって、コミュニケーションに対してあきらめモードに……。海外の人以前に、日本人との交流も減っていて、日本語での会話もおぼつきません。 まず、日本人同士の歓談の機会を取り戻したいです。
 
 でも、単語や短文しか出てこない状態でも、それを受け止めてくれる相手の優しさに気付かされることが多いです。そんな人の優しさに感謝しながら謙虚にコミュニケーションしたいです。いつまでも英語ができない唯一のメリットは、調子に乗らず、自虐……とまではいきませんが、常に初心でいられることかもしれません。

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