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【連載コラム 第6回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

おしゃれな外国人のるつぼ、原宿の新スポット

  今,東京中海外観光客が戻ってきて賑わっていますが、中でもおしゃれな外国人が多数集まっているのが、原宿の周辺です。日本は円安で、海外の人にとってはセール会場くらいに見えているのではないでしょうか。お手頃なユニクロやGUの紙袋を持っている人も目立ちます。また、かなり混んでいたのがスニーカーショップでした。NIKE、オニツカタイガーなどの紙袋を持っている人も結構います。チェーン店も人気ですが、レアなスニーカーが並んでいるショップはかなりの人口密度でした。

 原宿のショップ店員は、インバウンド対応モードになっているのでしょうか。ある時計店に入ったら、店員さんが英語で話しかけてきました。
「Here is the watch band.」
 もしかしたらこう見えて店員さんは外国籍の人なのかもしれないと思い、私も簡単な英語で答えました。
「Are these for apple watch?」「Yes.」
時計のバンドコーナーでそんなやりとりをしたのですが、私のたどたどしい発音から、どうやら訪日外国人じゃないと気付いたらしく
「このあたりは太さ22mmです」 と、日本語の会話になっていました。
 若干の気まずさが漂いましたが、お互い英会話の練習ができたのなら、Win-Winだと思うことにします。そして、裕福な外国人観光客に見えたのなら嬉しいです。

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広い店内では椅子に座って試し弾きができます

 そんな原宿で最も旬で、海外の人にも人気のお店といえば、オープンしたばかりの「FENDER FLAGSHIP TOKYO」でしょうか。有名なギターブランド、フェンダーの世界初となる旗艦店が、原宿にオープンしました。77周年の老舗ブランドが,原宿の地を選んでくれたと思うと日本人として光栄です。そういえば、中高時代バンドブームで一瞬だけエレキギターを弾いた思い出が。もう前世のような昔のことです。ただ、生花店のバイトではとてもフェンダーなんて買えず、15000円の安ギターでしたが……。長い時が経ち,今は一切弾けなくなってしまいました。

 さっそく現地に行くと、オープン直後とあって「FENDER FLAGSHIP TOKYO」には入場待ちの列が。海外の人も何人か並んでいます。楽器を買ったとしても、飛行機で持って帰るのは大変ですが、あえてこのショップに来るというのは実際にバンドをやっている方々なのかもしれません。

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「FENDER FLAGSHIP TOKYO」は、1棟丸ごとギターショップになっていて、まず、1階には新製品やアーティストシグネイチャーモデル、Tシャツなどのグッズが販売。2階は日米の人気のギターやアンプ、地下1階はアコースティックギターが売られていてカフェスペースもあり、3階は最上級のフェンダーカスタムショップ、といったフロア構成です。素人ですが、ギターの数だけ夢があると思うとワクワクしてきます。

 1階に入ると、広いフロアには随所にギターが展示され、ソファなどもたくさんあり、好きに手に取って座って試し弾きできるようになっていました。通常のギターショップの試奏は店員に頼む必要があり、ハードルが高いですが、この「FENDER FLAGSHIP TOKYO」では、そこらじゅうにあるギターに気軽に触れられます。安くても十数万円以上のギターを弾けるとは……。中には、隣の彼女に向かって、ギターを弾きながら歌っているおじさんもいました。年下の彼女が無表情なのが気になりました。

 さすが旗艦店だけあってギターの種類が豊富すぎでした。海外観光客向けか、北斎の浮世絵がプリントされている木目の和風ギターも。約30万円でした。「I Like it!」と海外の人が反応していました。また、レジェンドのギタリストたちが愛用していたギターのレプリカバージョンも。カート・コバーン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、エリック・クラプトンモデルなどが存在感を放っていました。やはり売れると派手にカスタムしたギターを好むようです。個人的に、クラッシュのジョー・ストラマーの使い込んだ風合いのギターが素敵だと感じました。ただ、素人がこのダメージ加工のギターを持っていて,下手だったら笑い者になりそうです。これらのレジェンドのギタリストのモデルも20万円くらいから売られていました。フェンダーのギターの平均価格がだいたいそのくらいだとして、もしミュージシャンとして成功したら、わりと少ない初期投資でリターンがかなり大きいです。お金のためだけではないと思いますが、今も昔もギタリストの夢を抱く人が多いのもわかります。

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階段の壁にはギタリストのスターたちの写真が並んでいます

 階段の壁面には、実際に成功した日本や海外のミュージシャンの写真が飾られていました。ポールマッカートニー、カート・コバーン、布袋寅泰、ウクレレを持ったビリー・アイリッシュ……特に名前表記がないのですが、ギタリストを目指す人なら知っているべき、というメッセージ性を感じます。

 そして、この店内で試奏している人の中にも、実は有名人がまぎれていたり……? アンプをつけて試し弾きができる部屋で、壁の方を向いてガチな感じで演奏しているイケメン外国人など、周りに集まって聴いている人が何人かいました。素人は、プロかもしれない人の演奏をタダで聴かせてもらえる楽しみも。

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ジョー・ストラマーのモデルの使い込まれた風のギター

 また、注目を集めていたのがタトゥーだらけの外国人男性客。ギターを持つとかなりさまになります。1階や地下1階で次々ギターを奏でていたのですが、ライブのギターソロのようなパフォーマンスで、弾き終わった時に「COOL!」と叫ぶ外国人の店員が。また、日本人の男性店員も、「You play the guitar very well.」と話しかけていました。「Thank you!」と外国人男性は喜んで「What is your name? I’m Matt.」と自己紹介。この店内でギターがうまい外国人がいたら、英語でほめることで交流が生まれるかもしれません。

 でも、そこまで本職じゃなくても、ギターがちょっと弾ける人なら、手軽に相手にアプローチできそうです。店内でよく見かけたのは、日本人、外国人問わず、彼氏が彼女の前でちょっとギターを弾いてみせるというシーン。吊り橋効果に匹敵しそうなギター効果。それも無料の試し弾きで相手の心を掴めたらラッキーです。とにかく、ギターを弾ける人は3割くらいかっこよく見えるという、夢がうずまいているお店でした。

辛酸なめ子漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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