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【連載コラム 第5回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

英字新聞柄の解読

 身近な英語といえば、様々な場所に潜んでいる英字新聞柄が思い浮かびます。80~90年代に流行していた英字新聞柄。日本人の英語コンプレックスや、舶来ものに弱い習性を刺激するアイテムでした。令和の今は一周回って、ダサさを通り越しているような気がします。今でいう「エモい」ジャンルに入るのでしょうか。

 そのカルチャーは連綿と続いていて、包装紙や文房具などに英字新聞柄を見かけることもあります。ちょっと前に「ステラおばさんのクッキー」の、英字新聞柄の袋に「夫の調理法」という文章が載っていると話題になりました。一瞬猟奇的な内容なのかと思ったら、愛情に満ちたハートウォーミングなレシピだったようです。
ネットの記事に日本語訳も載っていましたが、「材料を、安楽と呼ばれる強い絹糸で縛り鍋に入れる」「鍋を清らかで落ち着いた愛の火にかけ、清々しく、ほがらかに煮る」「キスという砂糖を少々入れる」「やさしくかきまぜ、見つめてあげる」など、ノロケのような内容でした。公式サイトによると、ステラおばさんは実在の人物で「とっても愉快な人」だったそうです。「夫の調理法」というユーモアの発露にも、彼女のセンスが感じられます。

 クッキー好きなので都内の店舗に行き、量り売りでステラおばさんのクッキーを購入。英字新聞柄の袋は、量り売り購入することで入手できます。

 見てみたら話題になった「How To Cook A Husband」という見出しが。「A good many husbands are utterly spoiled by mismanagement.」(非常に多くの夫が、まちがった管理によって完全に甘やかされています)という文章で始まっていました。「一部の女性は、お湯に入れっぱなしにしています。不注意によって凍結させてしまう人もいます」「シチューに入れておく人、ローストする人、一生ピクルスにしておく人もいます。このように、どの夫も優しく上手に管理できるとは限りませんが、適切に扱われると本当においしいものになります」

 夫への、食べたいほどの愛情が伝わります。とにかく優しさと愛情が重要のようです。夫だけに限らず、どんな調理にも当てはまる基本理念かもしれません。

 袋にプリントされた英字新聞には、他にも「生きるためのレシピ」という記事が。「1カップの愛と1/2カップの親愛をブレンドし、1カップの感謝と3カップの楽しい交友関係を交互に少しずつ加え、それに小さじ3杯の賞賛を入れて、ふるいにかけます」などと書かれていました。人生には他者との交流が必要だというメッセージが伝わってきます。ポジティブな言葉がちりばめられている英字新聞柄でした。クッキーの味にも良い影響を及ぼしそうです。

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 ステラおばさん以外の英字新聞柄の内容も気になってきました。100円ショップで、英字新聞や、英語プリントのアイテムを探してみました。みうらじゅんさんが、「バッグ・オブ・英字ブーム」というジャンルで、謎の英語プリントの紙袋を収集していて、みうらさんの展示会場でもシュールな紙袋を見たことがあります。例えば、「PULL TOGETHER」(力を合わせて)「BYE NOW」(じゃあさようなら)など、目立つ感じでプリントされていて味わい深いです。

 私が100円ショップで見つけたのは、それぞれ「Liberty」(自由)、「Cherish」(大切にする)というフレーズが大きくがプリントされた2種類の袋。しかし下の方に小さい文字で「他人に笑われるかもしれないし、嘲笑されるかもしれない」と不穏な英文が入っていました。デザイナーさんが疲れていたのでしょうか……。そして「Liberty」の方には筆記体で「Tinking」とおしゃれな感じでナナメに入っていたのですが「Thinking」の間違いでしょうか。一応調べたら「Tinking」は「編み物をほどく」という意味もあるようです。わざわざこのマニアックな単語を使ったのか…… 調べれば調べるほど謎が深まります。

 100円ショップには、英字新聞柄の包装紙もありました。一枚は「LATEST DAILY NEWS」と題されていました。2010年9月1日と記されていましたが、実在の新聞を一部改変したのか,それとも架空の新聞を作ったのかは不明です。見出しを読むと、「1982年、ヒマラヤに国立公園が設立されました」「アパラチアン・トレイル沿いの夏と秋の野性の花」「子どもたちのフラワーショー」など、ピースフルな記事が多い英字新聞柄です。なぜか「バークレイセントラルフラワーパーク」というタイトルなのに、本文は野球について、という不思議な記事も。「日本のプロ野球の試合を見て思うこと。観客席の下手くそなトランペットの演奏」「ひたすら歌を歌うのはバカげている」「日本人は同じように行動しようとする」「バントが多すぎる。犠牲バントを見るために大金を払ってチケットを買ったわけではない」「日本のプロ野球選手の皆さん、アメリカのプロ野球選手を見習ってもっと一生懸命働いてください」「プロである意味を考えてください」

 なんと……花の公園の記事に見せかけて、日本の野球をディする内容でした。一体誰が何の意図でこんな記事を書いたのでしょう……。日本人はどうせ英字新聞柄の英字は読めないだろう、と見くびられているのかもしれません。裏面を見たら、違う記事に表面と同じ見出しがつけられていて、使い回されているようでした。実在する新聞かどうか気になります。新聞柄にはサブリミナル効果もありそうです。

 もう一枚、別の英字新聞柄の包装紙も購入。こちらのレイアウトは、記事がランダムに並んでいてデザインを重視している印象です。一部の記事を翻訳してみると「ジュースは100円で買えたけれど,好きになれなかった。最初に買ったとき、もう二度と買うまいと思ってけれどまた買ってしまった」と文句のような文面があったり、アメリカの祝日についての記事や、ギターのコードの押え方を解説する文章、オペラの「カルメン」についての記事があったり、脈絡がないです。

 今回わかったのは、ステラおばさんのようにメッセージ性があるものもありますが、ほとんどの英字新聞柄はわざわざ読み解く必要はない、ということ。柄は柄のままにして雰囲気だけを感じたいです。

 

辛酸なめ子漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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