【連載コラム 第32回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道
初ヨーロッパで異文化体験

先日、はじめてヨーロッパの地を踏むことができました。これまで何十年も「ヨーロッパに行ったことありますか?」と聞かれて「ありません」と答えてきた人生でしたが、ついに行ったことがあると答えられるようになりました。ただ、3泊でバルセロナとパリに行くという弾丸でしたが…。

バルセロナへは直行便がないので、途中トランジットで一日がかりで行くことになります。エティハド航空でアブダビを経由して行くことにしました。こちらもはじめて立ち寄ったアラブ首長国連邦の首都、アブダビ。リッチなイメージを裏切らず、空港は真夜中にもかかわらずブランドショップや飲食店が開いて照明がギラギラしていました。クロワッサンやマックのドリンクが1000円近く、サンドイッチとコーヒーのセットが3000円位して物価が高かったので、前半のフライトでもらったミネラルウォーターを飲んで待機しました。
エティハド航空のエコノミークラスは隣の男性がずっと友達や彼女とビデオ通話をしていてなかなか落ち着けず…。CAさんが時々空中に謎の液体を噴霧しているのも気になりました。日本語の表示がほとんどなく映画も英語で観ることになって勉強になりました。
遠路はるばるやっとバルセロナに到着し、友人たちと合流。ランチでは店員さんに英語で話したのに理解してもらえないというハプニングがあり、自信喪失。海外旅行のために毎日英語アプリで勉強してきましたがAIとしか会話していなかったので、生身の人間とのコミュニケーションの難しさを実感しました。午後、念願のサグラダファミリアに向かいました。ちなみに主要観光地は今やどこも事前予約制で、すでにカードで入金済み。QRコードを見せて入ります。観光地なのでスリに注意しながら教会の入り口へ。友人は、サグラダファミリア前の広場で「泥棒!」と叫ぶ声を聞いたそうですが、実はそれは罠で、注意をそっちに向けた隙にスラれることがあるそうです。常に神経を張り巡らせ、バッグのジッパーはしっかり閉めていました。
ガウディ渾身のサグラダファミリアは、完成間近と言われていますが、未完成だからこそ生きている感じがして、聖なるエネルギーを体感することができました。予約したチケットには、エレベーターでタワーの高いところまで登るオプションがついていました。バルセロナの絶景を眺められましたが、帰りは延々と下りの階段。しかも途中から、覗き込むと奈落の底が見えるらせん階段になっていてかなり怖かったです。教会的には、人生の道を踏み外さないように注意深く進め、という教訓を感じます。少しでも立ち止まると外国人のおばさんに「People behind you!」と注意され、あおられながらなんとか無事に下界に戻ってこられました。早朝飛行機で到着したばかりでこんなハードな運動が待っていたとは。教会内部のステンドグラスに疲れた心身が癒されました。

バルセロナではロエベなどハイブランドに一瞬入りましたがとても買える値段ではなく…。フェルトのキーホルダーが10万円くらいしました。そんな中、プチプラのお店を発見し、安いニットなど購入。16ユーロだったのですが1ユーロ約180円なので約3000円。ユーロ高の中、一瞬希望の光が見えました。
慌ただしく翌朝にはパリに出発。LCCのブエリング航空で約2時間のフライトでした。入国審査もなくてスムーズです。同じEU圏だからかと思ったら「シェンゲン協定」の加盟国ということで原則として自由に移動できるそうです。アジアでも取り入れてほしいです。
パリではルーヴル美術館や奇跡のメダイ教会、フォンダシオン・ルイ・ヴィトンやブローニュの森、定番のエッフェル塔や凱旋門、ル・ボン・マルシェやギャラリー・ラファイエットなどのデパートなどを巡りました。ナビゴイージーという全然イージーじゃない交通系ICカードを買って地下鉄にも乗りました。チャージ方法が難しくて、窓口の駅員の女性に質問したのですが、露骨に怪訝な表情をされてわからないと言われました。パリジェンヌは感情表現が豊かなようです。東京の地下鉄のように安全じゃないのでさすがに座って居眠りはしませんでした。スマホを出したら危ないと言われていたのですが、乗客はほとんどスマホを出して眺めていてわりと大丈夫そうでした。運よくスリには遭遇しなかったのですが、危険を感じたのは手動で開ける地下鉄のドア。多くの地下鉄がレバーを引いて開けて降りるようになっているのですが、まだ走っているのに開けて完全に止まってないのに降りるせっかちな人が多数。日本では余程のローカル路線じゃないと手動なんて見かけないですが、パリの中心を走るメトロでも自分でドアを開けるアナログ方式になっているのがカルチャーショックでした。
行った中でまずパワースポットだと感じたのは、奇跡のメダイ教会です。1830年に、メダイを作るように、という聖母マリアのお告げを受けたカタリナという女性がメダイを大量生産。当時メダイが配られたことでコレラが収束に向かったと言われています。教会の祭壇のガラスケースには聖女カタリナさんと、もう一人の修道女の遺体が安置。ずっと腐らないままの奇跡の遺体です。キリスト教徒の方々が真剣にお祈りしていて厳かな空気が漂っていました。お土産にメダイを大量購入。

歩いていて偶然見つけたのは、ノートルダム・ド・ヴィクトワール教会です。外観は渋い建物ですが、中に入ると美しいマリア様やキリストの像、宗教画がたくさん飾られていて圧巻でした。京都でふらっと入ったお寺に運慶作の仏像があった時のような感動に包まれました。由緒もある教会で、ある修道士がこの教会で聖母にお祈りしたらルイ14世の王太子がお生まれになったという霊験あらたかな教会。聖テレーズもこの教会でお祈りしたら病気が治ったそうです。モーツアルトもここにお参りしていたと聞くと、仕事運が上がりそうです。観光客はいなくて、現地の方がお祈りしていました。管理しているおじさんに声をかけられたので怒られるのかと思ったら、新日家の方らしく、秋田の聖母マリアの像がある教会に行ったことがある、などと話してくれました。秋田の聖母マリアといえば、時々涙が流れる奇跡現象で有名です。拙い英語で、「涙が流れるマリア像ですよね! 知ってます」などと言って少し盛り上がりました。今回の旅は聖母マリアに縁があります。いつもは頻繁にトイレに行っているのが、トイレが少ないパリではなぜかほとんど行かないで大丈夫だったのは、マリア様にお祈りしたご加護かもしれません。
他に英語を使ったシチュエーションというと、レストランでの注文でしょうか。フランス産のポテトがおいしかったので、そのことを伝えたつもりが「ポテトの注文がまだ通っていないって彼女が言ってるよ」と誤解されて伝わりそうになり、あわてて言い直しました。
やはり最終的にはジェスチャーが伝わります。帰国のためにシャルル・ド・ゴール空港に行き、荷物検査を受けたときのこと。私はパリのモノプリという服も売っているスーパーで買ったニットを着ていました。デザインで肩掛け風ニットがくっついているものなのですが、検査員が羽織ったニットを脱ぐように何度も言ってきたので、ジェスチャーでくっついているので脱げないことを伝えたらわかってくれました。英語で咄嗟に説明するのは難しいです。「これはパリで買った服ですよ」と言って、フランスのデザインに責任転嫁。
そして3泊5日の短くも充実したヨーロッパ旅行は無事に終わりました。ヨーロッパの文化や芸術の豊かさ、美的センスの素晴らしさに触れ、憧れの気持ちが高まりました。帰国後友人にフランス旅行の話をしたら「前世フランス人っぽい」と言われ、間髪入れずに「ありがとうございます!」と答えてしまいました。もっと日本人としての誇りを大切にしたいです。


