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「第一線で輝き続けるために」
通訳者・橋本美穂さんロングインタビュー

多数の企業から絶大な信頼を得ているビジネス通訳者であると同時に、講演、書籍の執筆、テレビやラジオへの出演と多彩な分野で活躍している橋本美穂さん。通訳者として大事にしていること、第一線で輝き続けるために必要なことなどを伺いました。

第2回「通訳者の頭の中では、4つのattention(注意・意識)が同時進行しています」

Profile:1975年米テキサス州ヒューストン生まれ。幼少期を日本で過ごした後、6歳から11歳まで再びアメリカへ。中高は神戸の公立学校に通い、慶應義塾大学総合政策学部を卒業。キヤノン(株)勤務、日本コカ・コーラ(株)の社内通訳を経てフリーランスに。著書に『英語にないなら作っちゃえ! これで伝わる。直訳できない日本語』(朝日出版社)。

Q:通訳スクールで学んでいたこともあると聞きました。

橋本:キヤノンに勤めながら週末と夜間に通訳スクールに通い、通訳技術というものの奥深さを理解しました。自分の言葉で話すこととは異なるのだと痛感したのです。

メモの取り方などテクニカルなことを学び、政治、経済、環境などさまざまな分野を扱う実践的な通訳トレーニングを受けました。逐次通訳をする際、すべての情報をメモに書き取るのは不可能であるため、例えば会社の数字を訳す際は、「売上成長率前年比25%、営業利益率17%」といったように具体的な数字をメモし、自分なりに工夫して記号も使うようにしています。

Q:通訳者は現場に出る前に、入念に下準備をしているそうですね。

橋本:各業界の事情や専門用語を日英両言語で理解しておく必要があり、キーワードをリストアップして単語帳を作るようにしています。確認すべき専門用語については通訳を依頼してくださったお客様に事前に伺います。一度教えていただいた単語は決して忘れません。

通訳者はそのようにして、日々自身の知識や語彙を向上させていく必要があります。それでも現場で耳慣れない語が出てくることがあり、前後の文章から意味を類推しつつ、通訳を続けながら片手で辞書を引くこともあります。

Q:現場で通訳をしている間にも、さまざまなことを同時にこなしているのですね。

マルチタスクは不可欠です。一つのスピーチを聞きながらそれとはまったく関係がない内容の文章を読み、両方とも理解できているかどうか確認するといった自主トレも行っていました。

私は、通訳者の頭の中の状態をsplit attentionという言葉で説明しています。例えば、リスニングに25%、記憶作業に25%、構文&ワードチョイスに30%、スピーキングに20%とattention(注意・意識)をsplit(分配)し、通訳をしている際は、これらすべてを同時進行させます。うまくいかないときはこれらのどれかが滞ってしまっている可能性があり、「リスニングができていないのでは」などと自分で分析しながら立て直しを図ります。

ご自分でsplit attentionのトレーニングをするときは、ただやみくもに量をこなすのではなく、「何のためにその動作をしているのか」を考え、ポイントを押さえて実践することを心掛けるようにしてください。

Q:橋本さんは和訳と英訳の両方を手掛けていますね。

橋本:私は小学校時代をアメリカで過ごし、小学6年生の秋から日本に帰って神戸の公立学校に通いました。今でも頭の中では、英語と日本語が混ざった状態で考えていることがあります。

通訳の仕事では、和訳と英訳いずれの場合でも、相手の意図をくみ取って的確な表現で伝えることが最も大切です。日本語の聞き取りが完ぺきでも、英語の表現力が乏しいといい通訳にはなりません。逆に、万一英語が完ぺきに聞き取れなくても、日本語の表現力が豊かであれば聞き手に理解されやすい、いい訳にすることができるかもしれません。

 

Q:幼少期を海外で過ごすと、自然に英語ができるようになると思う人もいるようです。

橋本:私がアメリカの小学校に通い始めたころは、トイレに行きたくてもどう伝えればいいかわからないような状態でした。その際、「コミュニケーション力を磨いて自力で生きていくしかない」と、幼心に自覚したのです。アメリカでは一人ひとりが違うのが当たり前で、自分が何をしたいのか声に出して言わないと伝わらないということも学びました。

また、小学校では現地のアメリカ人向けの授業を受けていたので、漢字や日本の地理・歴史など、日本人として基本的に知っておくべきことは、家に帰ってから自分で勉強していました。子どものころから、人の2倍くらいは勉強していたような気がします。そうやって身に付けた勉強する習慣が、今、通訳者としてさまざまな分野の知識を得ることに役立っています。

(第3回に続く)

橋本さんの通訳者になるまでの道のりは こちら

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