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    越前先生の「この英語、訳せない!」

【連載コラム 第16回】
越前先生の「この英語、訳せない!」

ビシッと決まる訳語の裏には翻訳家の人知れぬ苦労があります。
名翻訳家の仕事と思考のプロセスを追体験できる、珠玉の翻訳エッセイ。

technically ― 「技術的」とはかぎらない

 辞書を引いてもなかなかぴったりの訳語が載っていない単語の代表格が、このtechnicallyです。多くの辞書には、「技術的に」「専門的に」といった訳語しか出ていません。しかし、自分の経験では、そのような訳語ではどうにもならないケースがおそらく半分以上だと思います。

 technicallyが用いられるケースでいちばん多いのは、「理屈から言えば」「表向きには」「厳密に言うと」といった意味合いを帯びる場合で、とりわけ文頭に置かれたときは、ほとんどがこの意味になります。 Longman Dictionary of Contemporary Englishには、technicallyの定義のひとつとして、“according to the exact details of a rule or law”というものがあり、これが最も近いと言えます。

 わたしの訳書から、例をいくつかあげましょう。どれも訳出時にはかなり考えた記憶があります。

  to do something that could technically get her disbarred
  これからすることは、厳密に言うと法曹資格を剥奪されうる
  (『ニック・メイソンの脱出への道』スティーヴ・ハミルトン、角川文庫)

  Technically, Katherine Brandt is the second-most-powerful person in the country.
  形の上では、キャサリン・ブラントはこの国で二番目の権力者だ。
  (『大統領失踪』)

  it wasn’t technically spying.
  本当はスパイしてるわけじゃない
  (『おやすみの歌が消えて』)

 比較的新しい辞書にはこの意味が載っていることがあるので、いろいろ見比べてみてください。

 

越前敏弥(えちぜん としや):文芸翻訳者。1961年、石川県金沢市生まれ。東京大学文学部国文科卒。訳書『オリジン』『ダ・ヴィンチ・コード』『Yの悲劇』(KADOKAWA)、など多数。著書に『この英語、訳せない!』『「英語が読める」の9割は誤読』(ジャパンタイムズ出版)、『日本人なら必ず誤訳する英文・決定版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
    

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