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【連載コラム 第3回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

超富裕層のハードな人間関係をNetflixで観賞

 金運と英語力を両方高めてくれるかも、と期待して観ているのがNetflixの『きらめく帝国』シリーズ。もう日本人は仲間に入れなさそうな、超富裕層のアジア人たちのリアテリティドラマです。モニターごしに観るのがちょうどいい、強烈で威圧感漂う方々が出てきます。

 新シリーズ『きらめく帝国 ~超リッチなアジア系セレブたち~ ニューヨーク編』(原題は『BLING EMPIRE NEW YORK』)が始まったので拝見。登場人物はみなさん億単位の資産を持っていたり親や夫が大金持ちだったりする方々。

 番組の中でも解説されていましたが、とくにファッション業界で力を持っている成功したアジア人を「Slaysian」と呼ぶそうです。代表的な存在はデザイナーのフィリップ・リムなど。

 そんな「Slaysian」が集うパーティシーンもドラマに収録されています。香港出身の投資家でカジノを運営するスティーブン・ハンが、25歳年下の美人妻、デボラとギャラリーでパーティを開きます。テーマは「シュールレアリスムとオートクチュール」。このテーマだと着ていく服を用意するのにもかなりお金がかかりそうです。デボラは約13000ドルと約26000ドルのドレスで迷って、夫に「両方買ってあとで決めれば」とアドバイスされていました。

 パーティの会場はニューヨークのギャラリー。リアーナを顧客に持つシンガポール出身のデザイナーのリン、中国系とスコットランド系のミックスで編集者のブレイクなど、華やかな「Slaysian」たちが集います。パーティシーンを見る限り日本人はいなさそうな……。

 そして、参加者たちは全身スパンコールだったり、ラメだったり、ファーといったいかにも高級な派手な衣装を身に付けていました。金銭感覚がすでにシュールレアリスムです。一見庶民的な編集者のブレイクが、紙製のケーキのオブジェを頭にのせていて、これは材料費だけかと思ったら「カーリー・マークという新進気鋭のデザイナーの作品」とのことで、一番おしゃれ上級者でした。かなり安上がりだったのは、もじもじくんみたいな黒づくめの上下で参加した人と、顔にピエロみたいな赤いペイントをほどこした人でした。ニューヨークの社交界に絡んで行くのは大変です。

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 そんな中、ちょっとした事件が勃発。ビバリーヒルズからニューヨークに引っ越してきたばかりのドロシー・ワン(親が台湾系の超富裕層)が、新たな友だち作りのためにパーティに参加したのですが、遅刻してしまいました。開始時刻から2時間経って、階段を上ってきて「山登りみたい」とグチりながら登場。「クロークもないしドアマンもいない……」と文句が多い彼女に「遅刻するのがおしゃれなんだね」とイヤミを言うパーティ参加者。ニューヨークの社交界は厳しいです。ギャラリーで集まって立ってシャンパンを飲んでいる風景を見ると、着席のディナーでもないし開始時間は守らなくても良いような気がしますが、ニューヨークのアジア人社交界の女王、デボラが許さなかったようです。他の参加者に、ドロシーに聞こえるようにわざと「時間通りにきてくれてありがとう」とイヤミっぽく言っていました。「遅刻した人もいたわね」と言われると「Super late.」と批判。パーティ主催者なのに機嫌を悪くして途中で帰ってしまいました。

 負けず劣らず気が強いドロシーは、遅刻した上に、食べ物がないと不満を爆発。ファッションインフルエンサーの友人,ティナに「楽しくない。オードブルもなかった」と訴えます。番組内インタビューでも「セロリスティックもない」「キュウリとディップやキャビアもなし」「ナッツもないのよ。デルタ航空ですら出すのに!」と怒っていました。超富裕層なのに、食べ物がなくて怒っているとは庶民的です。でも富裕層育ちだからこそ、どこでも手厚いサービスを求めてしまうのでしょう。冬は寒さが厳しいNYで、空腹状態になると、切なさが倍増しそうです。ドロシーは数日後友だちと会った時もまだ言ってました。食べ物の恨みは恐ろしいです。

 バトルはSNSで場外乱闘状態に。「7時から10時までのイベントに着飾って行ったら何も食べ物がないのよ。どういうこと?」と、ドロシーがパーティの後、インスタのストーリーにアップすると、デボラがチェックしてすかさず反撃。「招待もしてない客が遅刻して来て食べ物がないと文句を言ってる」などと書いていました。ドロシーは番組を盛り上げるために挑発したのだとしたら、サービス精神旺盛です。デボラはドロシーの名前を「ティファニー」とわざと言い間違え、ドロシーはドロシーで「デボラ」と「Boring」をかけて「デボーラ」と呼んでいました。結局同レベルの2人なので、何かの機会で和解すれば気が合いそうです。しかしニューヨークの超富裕層のアジア人コミュニティーは狭そうなので、一回わだかまりができるとあとあと尾を引いてしまいます。後半、和解のための食事会がセッティングされるのですが、今度はデボラがドタキャンしていました。

 お金持ちだからといって、教養レベルや精神性が高いとは限りません。アジア人のイメージアップのため、もっと知的な会話のシーンも流してほしいところです。

 でも、ドラマを観たあと、ドロシーが開設した自身の旅行記などを掲載したサイト「dorothywang.com」を見てみたら、文章や表現のセンスがあって、さすがセレブ育ちだと感じ入りました。「東京を一言で表すなら『美しい矛盾』。この街は、超近代と古代が交差する場所に存在し、あらゆる街角でドラマが繰り広げられているのに驚かされます」などと東京を表現。紹介しているお気に入りホテルは、アマン東京、ザ・ペニンシュラ東京、ザ・リッツ・カールトン東京など高級なところばかりでした。ドロシーをはじめとした「Slaysian」の皆さんがまた日本に観光に来て、円安の日本で消費しまくって経済を回してくれることを願ってやみません。

 

辛酸なめ子漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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