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【連載コラム 第10回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

ブリトニー・スピアーズの回想録の超訳に挑戦

 ブリトニー・スピアーズの回想録『The Woman in Me』がついに発売されました。といっても日本語版が出るのはいつになるかわからず、ブリトニーファンとして、本の内容についてのネットニュースを検索し、部分的な情報を眺めて悶々としていました。

 英語能力がないので洋書を買っても読める自信がありません。でも電子書籍の翻訳機能を使えば、直訳ですが少しは解読できるかもしれない……そう思って意を決してAmazonで購入。Kindleのアプリで興味がある部分を訳しながら読んでみました。

  iPad版、アンドロイド版で少し見え方が違いますが、便利な辞書機能が付いているので単語を選択すると下に意味が表示されます。たとえば「costody」を選択すると「保管、管理」など日本語で表示。「Translate」というウィンドウもあって、選択した英語の文章が日本語の直訳で表示されるはずなのですが、時々「翻訳中にエラーが発生しました」と出てしまいます。その場合、一文だけにしたり分量を調節し、やり直しました。段落ごとなど少しずつ翻訳するのは手間がかかります。アンドロイド版は、難しい単語にはルビのように簡単な英語の言い換えが表示されるようになっています。結構英語の勉強になりそうです。「condescendingly」は「with a mean attitude」、「見下したように」という意味のようです。「humiliariton」は「strong feelings of shame」と書かれていました。日本語にすると「屈辱」でしょうか。
「leered」は「look at in a sexcial or ugly way」、「獣のような目で見てきた」「なめ回すような目で見た」もしくは「視姦」という意味と拝察。こうしてちょっと読んだだけでもブリトニーの 恨み節が多いです。「Fuck you.」という単語も連発。ゴーストライターが邪気を浴びて体調不良になりそうです。

 ブリトニー・スピアーズは、世界的なスターであるいっぽう、男運や家族運には恵まれていないようです。世界に愛されていても身近な人には愛されない……そんな悲痛な思いが行間からにじみ出ています。

 当時、ファンとしてブリトニーのことがかなり心配だったのは、2007年頃。突然頭を丸刈りにしてパパラッチを傘で襲撃した姿が報じられた頃です。ケヴィン・フェダーライン(無名の元バックダンサー)との離婚のごたごたや、パパラッチの執拗な追跡でストレスを抱えていたようです。

 ケヴィンとの関係に暗雲が立ちこめだした頃について、20章にこんな記述がありました(やや超訳)。

 「ケヴィンはラッパーとして有名になろうとしていたので、私はそれをサポートしました。レコーディングスタジオに行くとドアの隙間からクサの匂いが漂ってきました。ケヴィンと仲間は、そこでハイになっていましたが、私は仲間に入れてもらえませんでした」

 そして疎遠になっていくケヴィンとブリトニー。一緒にホテルに泊っても、ケヴィンはブリトニーの方を見ようともしなかった、と書かれています。その時ブリトニーは結婚生活の終わりを痛感しました。ケヴィンはバックダンサーだったのが自称ラッパーになり、ブリトニーの知名度を借りてのし上がろうとして、勘違い度が高まっていたようです。そんなケヴィンについて冷静に考察するブリトニー。

 「私は人生で何度も、名声とお金が人を破滅させるのを見てきました。ケヴィンと一緒にいるとき、それがスローモーションで起こるのを見ました。だいたい男性は調子に乗ると終わります。名声やお金を愛しすぎてしまうのです」ブリトニーにとっても名声やお金がもたらしてくれた幸せは長く続かなかったそうです。

 「有名人の中には名声をうまくコントロールできる人もいます。彼らは誰の意見に耳を傾け、誰の意見を無視するか知ってます。賞やトロフィーをもらうのはクールだし説明のつかない感覚が得られます。私も最初の2、3年は気分良かったけど、本当の私は、そんなに注目を浴びたくなかった。学生時代はチアリーダーでもなかったしバスケ部で地道にプレーしてました」「華やかな名声の世界は現実感がないように見えますが、家族の全ての請求書を支払う羽目になるので、やっぱり現実です」

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 ブリトニーは「彼は自分のことを本気でラッパーだと思っていました」と、元夫を軽くディスっていました。一方、ケヴィンとの離婚で悩んでいた頃、ブリトニーが出したシングル『Gimme More』はそこそこヒット。その曲についてもこんなことを綴っています。

 「『Gimme More』は私が人生で撮影した中で最悪のビデオ。ダサいし全然気に入らない。撮影に3,000ドルしかかからなかったし」

 クラブみたいなところでブリトニーがポールダンスをしたり腰を振る映像は、たしかに場面転換もなくていまいちだったかもしれません。曲の途中で流れるブリトニーの「フフフフフ……」という乾いた笑いに心情が現れているようです。それでも話題になったのがさすがブリトニーです。

 ケヴィンは大麻好きだと本で暴いていますが、ブリトニーは別のドラッグを用いていたようです。

 「ADHDの治療に使われるアデロールのアンフェタミンでハイになってました。数時間だけ憂鬱な気分を和らげてくれました。ハードドラッグには全く興味がありませんでした。音楽の世界で薬をやっている人をたくさん見てきたけれど、私には向いていなかったです。私の故郷では何よりビールがマストでした」

 アンフェタミンは日本では覚せい剤取締法で規制されている成分です。今のブリトニーは使っていないと良いのですが……。

 そして例の丸刈り事件についても触れています。パパラッチに追い詰められ、衝動的な行動に及んでしまった日について……

 「その日、私は彼らにネタを投下してしまいました。 美容院に行って、バリカンで頭を丸刈りにしました。皆に変な目で見られて、クイレジーだと言われ、両親も恥ずかしい思いをしました。でも私が悲しみで正気を失っていることは誰も理解してくれませんでした。皆私を怖がっていて、子どもたちからも引き離されました。醜くなったので誰も私に話しかけようとしませんでした」

 悲しみで正気を失っていたと書かれていますが、当時の写真は笑顔で楽しそうに剃っています。それがまた狂気を感じさせますが……。

 「私のロングヘアは、人気の大きな要素でした。ロングヘアはホットだと思ってる人が大多数なのも知ってました。 頭を剃ること は、世界に向かって『ファック・ ユー』 と叫ぶ方法でした。あんたたちは私にあんたたちのためにかわいくなれって? ファック・ ユー。あんたたちのためにわたしに良い子でいろって? ファック・ ユー。私をあんたの理想の女の子にしたいの? ファック・ ユー。私は何年も前からずっと良い子だったでしょ。テレビの司会者がなめ回すような目で私の胸を眺めていた時だって私は礼儀正しく微笑んでいた」

 世界の中心で「ファックユー」と叫ぶブリトニー……恨み節は続きます。アイドル的存在として、ポップスターとして、様々な人の期待や欲望を一身に背負ってきたので、ときどき抑圧されていた自分を解放したくなってしまうのでしょう。この本を出してあらいざらいぶちまけたことも、ブリトニーの精神衛生上、必要なセラピーだったのだと思います。暴露された側はたまったものではありませんが……。これでますます友人や親族との溝が深まらないか心配ですが、ブリトニーには世界のファンがついています。

辛酸なめ子漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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