英字新聞のジャパンタイムズがお届けする
通訳・翻訳業界の総合ガイド

  1. トップ
  2. コラム
  3. 【連載コラム 第14回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

【連載コラム 第14回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

テイラー・スウィフトのMCに学ぶ英語開運法

 もはや社会現象になるほど影響力が大きいテイラー・スウィフト。ハーバード大学英文学コースにて「テイラー・スウィフトとその世界」という講義が始まる予定だそうです。その他、スタンフォード大学やカリフォルニア大学バークレー校、フロリダ大学などでもテイラー・スウィフト関連の講義が行われるというニュースを見ました。伝説が生まれているのに立ち会っているようです。

 長らくポップの女王と言えばマドンナでした。マドンナも社会現象を巻き起こし、時代を築いたスターですが、昨今は30歳前後年下の若い男子と交際したり、コンサートにたびたび遅刻したり、ステージで飲酒したりといった心配な行動が目立つように。23年に細菌感染症で救急搬送され入院したのは、テイラー・スウィフトなど若手への対抗意識で自分を追いこんでいたから、とも報じられています。女王の座を守り抜こうというプライドを感じますが、一抹の切なさが……。

 まだ30代前半のテイラー・スウィフトは体力も気力もみなぎっています。「THE ERAS TOUR」の東京ドーム公演は3時間20分を4日間連続という、気が遠くなりそうなハードスケジュール。この公演を世界各国で152回も行い、ロサンゼルスやシンガポールやトロントなど6日間も公演する場所もあります。今週も世界のどこかでテイラーが全力で3時間20分、45曲を歌い続けている、と思うと自分もがんばれそうです。

 ところで海外アーティストのコンサートに行くと、毎回発生するのが、MC聞き取れない問題です。しかも周りの人が一足先に英語を理解して笑っていたりすると焦燥感にかられます。最初に参戦したテイラーの2015年のコンサートはMCが結構長くて、「relationship」という単語は聞き取れたので、どうやら男女交際に関する重要な話をしているようでしたが、全然ヒアリングできず……。テイラーは日本人も英語はわかると思っているらしく、長い時間英語でトークしていました。

 今回はそんな悔しい思いはしたくないので、Google Pixelの音声認識アプリを使ってMCの翻訳を試みました。「コンバンワ! 東京!」という挨拶ではじまったコンサート。

columnphoto

 序盤には、東京に久しぶりに来られた喜びの言葉が述べられました。音声認識なので部分的に間違っているかもしれませんが、英語の文字起こしはこんな感じです。

「I cannot have been over four years since I got to come to Tokyo as in your beautiful faces, I’m just so incredibly happy to see you tonight. That’s it.」
「前回東京に来てから4年来られなかったので、今夜みんなの美しい顔が見えて最高に嬉しい」

というような内容でしょうか。ここで歓声が巻き起こります。

「And you have been so incredibly supported. So so welcoming you you want to hit it. Sold out Tokyo Dome four times for us. Did you know that you did that? Thank you. Tonight, we are going to be going on a little bit venture together that adventure. 」
「あなた方からは本当に信じられないほどのサポートを受けてきました。とても歓迎されているのに感動します。東京ドームの4日間は完売しました。そんなすごいことをしてくれたなんて、知ってましたか? 今夜、私たちは一緒にちょっとした冒険に出かけましょう」

 テイラーの人徳が感じられるトークです。ところでMCを文字起こしして少し理解できたとしても、まだ気が抜けません。テイラーの曲はヒット曲が多いので、歌詞を覚えているファンはかなりの部分を一緒に合唱していました。さすがに歌詞までは記憶していないし歌えないので座って静かに聴いていましたが、ノリが悪いと思われそうです。せっかくのテイラーの生の歌声を聴ける機会なので、自分の声をかぶせて脳内でミックスしたくない気もします。  次のMCでもテイラーは感謝を述べていました。

「So much to thank you for especially tonight. You it’s it’s really good such a good week. I, I want to start out though, by saying, Yeah, thank you to everyone who travelled a great distance to be at the show tonight.」
「今夜は本当にありがとうございました。とても良い一週間でした。でも、まず最初にこう言っておきたいと思います。今夜のショーのために遠くから来てくれた皆さん、ありがとう」

 東アジア、東南アジアの開催地は東京とシンガポールくらいなので、中国や韓国、タイなど各国からファンが遠征して来ていたようです。だから合唱の英語の発音が良いんですね。チケット購入の倍率が高い理由もわかりました。

「I really appreciate that. I can’t thank you enough for for wanting to be a show so much that you would that you would travel a great distance to be here. I just, it means the world to me and I’m so I cannot stop telling you how overjoyed I am to see you.」
「本当に感謝しています。 このショーに参加したいと思って、ここに来るために長い距離を移動してくださったことに、感謝してもしきれません。感謝の気持ちは世界くらい大きいです。あなたに会えてどれほどうれしく思っているかを伝えずにはいられません」

 テイラーはとにかく感謝発言が多いです。24年2月に「Midnights」が年間最優秀アルバム賞を受賞した時も、感謝や幸せを語っていました。ポジティブな言霊がさらに良い運命を引き寄せるのでしょう。

 今回のMCでも、グラミー賞受賞の喜びを語っていました。また、新しいアルバム「The Tortured Poets Department」が出るという報告も。米国ツアー中にアルバム制作をしていたそうです。

「I finished it and I am so so excited. As soon. You’ll get to hear it soon. We’ll get to you know. Experience together. And I’m just like, I’m over the moon about the fact that you guys care about my music.」 
「アルバムが完成したので、とても興奮しています。すぐに聞けるようになりますよ。すぐにわかります。一緒に経験してください。そして、皆さんが私の音楽を気にかけてくれているという事実に、本当に大喜びしています」

 「I’m over the moon」は「大喜びしている」「とても満足しています」という意味のようです。慣用句の勉強になります。次のアルバムも大ヒット間違いなしでしょう。終盤の「I love you so much. Thank you.」というのは自力でヒアリングできました。

 テイラーのMCを文字起こしして、内容は,ほぼ感謝とポジティブな報告ということがわかりました。受賞や完売、素晴らしいアルバムの完成報告など、もし友だちや周りの人に言ったら自慢になってしまいますが、ファンへの報告なら祝福が返ってきます。ポジティブな言葉や思いが何万人もの群衆によってさらに増幅し、テイラーを押し上げているのかもしれません。もしステージで、マドンナのように、遅刻の言い訳をしたり観客に逆ギレしたらマイナスのエネルギーが充満してしまいます。テイラーは若くして、群衆の心理を熟知し、エネルギーを効果的に使う方法を体得しているかのようです。コンサート会場はエネルギー増幅装置のよう。ハードな公演でも、客席から充電できそうです。幸せな報告や、聞こえが良い優等生的なMCばかりで若干物足りない気もしますが……テイラーに長く活躍してもらうためには、ポジティブエネルギーを素直に受け止めたいです。

辛酸なめ子漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。

その他の回を読む:第1回  第2回  第3回  第4回  第5回  第6回  第7回  第8回  第9回  第10回  第11回  第12回  第13回  第15回

コラム一覧

こちらもどうぞ

自分の目標、自分のなりたい姿に合わせてスクールを選ぼう。