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【連載コラム 第27回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道

古代の叡智、アーユルヴェーダの無料講座

 

先日、インド大使館で無料の講座があると知って申し込んできました。「AYUSH: パンチャカルマ – インドにおける解毒と若返り、 特にケララ州に焦点を当てて」という長いタイトル。アーユルヴェーダというインドの伝統の健康について教えてもらえるようです。

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 これを機にはじめて中に入った九段下のインド大使館。エントランスにはインド各地の民芸品が展示されています。同時通訳レシーバーを受け取り、ホールの椅子に座りました。会場にはインド好きっぽい人が集まっている印象です。

講師は、日本人のヨガインストラクターや、本場インドの医師など。アーユルヴェーダは、5000年も前からあるインドの伝統医療で、古代の生命科学。インドではAYUSH省という行政機関があるほど重要視されています。心と体を同時に扱い、自然治癒力を高めるというメソッドです。

 その中でも「パンチャカルマ」というのは、重要なアーユルヴェーダの浄化療法。十分な日数をかけて心身を解毒していきます。

「What is Panchakarma?」ということで、くわしい解説もありました。

パンチャ = 5つ (Pancha-five)

カルマ =行為(Karmaaction) 

という意味で、目的は  

「過剰なヴァータ、ピッタ、カバの排出によって健康を維持増進し、病気を予防し、老化を防ぎ、 若返りを促進させること」だそうです。シンプルな説明だと「健康と幸福を回復すること」が目的。人生で最も必要な要素かもしれません。

 ヴァータ(風)、ピッタ(火)、カバ(地)は体質(ドーシャ)を指す3つの要素。「パンチャ 」(5つ)というのは、5種類の治療法(手順)のことでした。

 後半に古典的なパンチャカルマの手順についての解説が画面に表示されましたが、翻訳したらなかなかハードでした。

 

 1 ヴァマナ 治療的嘔吐の誘発

 2 ヴィレチャナ 治療による浄化作用

 3 ヴァスティ 浣腸(薬用オイルまたは煎じ薬を使用)

 4 ナシャ 鼻吸入法

 5 ラクタモクシャナ 放血

 

 吐いたり、浣腸したり、鼻から何か吸入したり、悪い血を出したり……。このくらいのことを定期的にやって体内の大掃除をしないと人間は健康を保てないのでしょうか。

 また、治療の前後にも処置があるようで結構大がかりです。

 アーユルヴェーダというと、スリランカやインドのリゾートで、オイルを額に垂らしてリラックスするような快適なイメージがありますが、徹底的に浄化しようとするとこんなガチ感漂うメニューになるようです。

 ケララ州のアーユルヴェーダの病院への治療ツアーを行なっている男性によると、病気の方だけではなく、健康な人がより健康になるためにも役に立つそうです。

 ツアーでは、700年もの歴史がある由緒正しい病院「シュリダリヤム」を訪問。日本でこんなに歴史が長い病院は存在しません。その病院は目の専門というのも気になります。ケニアのVIPのご子息が脳から来る病気でほぼ失明されてしまい、西洋医療も中医学もいろいろ試したものの効果がなく、最後の頼みの綱でこのアーユルヴェーダの病院にたどり着いたそうです。奇跡的に視力を復活した、ということで病院の名声がさらに高まりました。

 ヨガインストラクターの女性が、ケララ州のアーユルヴェーダの施設に滞在したときの体験談を話しくれました。ギーという薬用のオイルを多用するので、爪の間からギーが匂ってくるほどだったとか。消化に優しいベジタリアンの食事で、施術の時間以外は、ヨガをやったり、自然に触れたりしながら、デジタルデトックスもできたそうです。

 私もインドのお祭、クンブメーラに参加したときに感じましたが、日本のようにすぐスイーツを買いにいけないので、お菓子も毎日食べなくなって健康的だし、Wi-Fiがなかなか通じないのでデジタルデトックスにもなりました。

 今回の講義の中で、インドの研究員による解説もありました。

 アーユルヴェーダの主な目的には「予防的側面(Main objectives of Ayurveda)」と「治療的側面(Curative Aspect)」があります。

 予防的側面は「バランスの取れたライフスタイル、食事、季節の習慣を通して、健康な人の健康を維持する」

 治療的側面は「病気の根本原因に対処し、ドーシャのバランスを回復することにより、罹患した人の病気を治療する」だそうです。

 ケララ州独自のアーユルヴェーダ治療手順として、ピンダ・スウェーダ(ハーブ湿布を用いた湿布療法)、シロダーラ(額に薬液を塗布する)、サルヴァンガダーラ(全身に薬液を塗布する)、ピジチル(ぬるま湯の薬用オイルを全身に塗布する)、クリヤカルパム(目の治療法)、ウドヴァルタナム(様々な病状に対するハーブパウダーマッサージ)、ムリティカ・スウェーダ(薬用粘土または泥を用いた湿布療法)などがあるそうです。古典的な療法と比べると、ハーブ湿布とかマッサージとかエステのようで受けたくなってきます。

 シロヴァスティ(脳を切開しない手術)というのも気になりました。オイルは頭皮に浸透し、神経終末と脳細胞に栄養を与え、ドーシャのバランスを整える、とのこと。すぐ手術する西洋医療と比べると、恐怖やダメージも少ないです。病気になったらケララ州に行くのが良さそうです。

 パンチャカルマでは、細胞レベルで体内に蓄積された毒素(アーマ)を除去できて、アーユルヴェーダでは、これらの毒素は多くの病気の根本原因と考えられています。普通に生きていたら、大気汚染や化学物質など毒素がたまりまくりです。毒素を排出することは、心にも良い影響を与え、不安、うつ、脳のもやもや感を軽減。集中力、心の平穏、そして感情の安定を高める、とのこと。日々、不安や脳のもやもやを感じています……。

「根本原因が特定されれば、病気は確実に治ります。根本原因を取り除くことは重要な要素です」と、先生は力説されていました。

 インドの先生の話で気になったのは「ご存知の通り、排尿は抑制すべきではありません。トイレに行きたい時もがまんすべきではありません。尿意をがまんすると、様々な症状を引き起こす可能性があります。また、抑制を繰り返すことで、筋肉が関与する様々な疾患につながる可能性があります」という教え。ちなみに「尿意をがまんするべきでない」は「You should not suppress」と表現していました。それこそインドに行ったとき、日中12時間トイレに行けなかった体験が……。そんなに体に悪いことだったとは知りませんでした。

 それにしても、インド人の先生方が皆さんかなりの高速早口の英語で、ほとんど息つく間もなく、通訳の人が大変そうでした。頭の回転が早くて肺活量があって滑舌良いのは、パンチャカルマで毒素やもやもや感がデトックスできた証拠です。高額なインドの医療ツアーにはなかなか参加できませんが、まずはトイレをがまんしすぎないところから始めてみます。

辛酸なめ子 漫画家・コラムニスト。1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。精神世界、開運から皇室、アイドル観察、海外セレブまで幅広いテーマを対象にエッセイと挿絵で人気を得る。著書に『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)、『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)、『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』『新・人間関係のルール』(光文社新書)、『女子校礼讃』『辛酸なめ子の独断!流行大全』(中公新書ラクレ)ほか多数。

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