【連載コラム 第28回】辛酸なめ子の英語寄り道、回り道
台湾での刺激的なハプニング
いつか海外旅行に行ける日を祈りながら、日々アプリなどで英語の勉強に励んでいます。先日、プライベートで台湾に行く機会があり、久しぶりに拙い英会話を実践できると思って緊張半分、楽しみにしておりました。
成田から台湾の高雄空港にLCCの飛行機で向かいました。飲食はあらかじめ入金して申し込まないと提供されず、座席のモニターもありません。よく言えば仕事に集中できる環境です。軽く仕事をしながら4時間ほど飛行機に乗って、空港に到着。日本円1万5000円を空港の両替所で換金すると、2921台湾ドルになりましたが、感覚的に一気にお金が減ってしまった感がありました。

そのあと、ホテルにチェックインするためタクシー乗り場へ。全く土地勘がない、瑞豊夜市というところにあるホテルなのですが、運転手さんが70代後半くらいの男性で少し不安な予感がありました。ホテル名を英語で伝えたら全く通じません。スマホで住所とホテル名を表示して渡したら、運転手さんはスマホを持って同僚のところに走っていきました。何かと思ったら、そのホテル名の読み方と住所を確認するためのようでしたが、戻ってきた運転手さんは、名前なのか住所なのかぶつぶつつぶやいています。不安がつのりながらも出発。予感は当たり、30分くらいで到着する予定だったのですが、運転手さんはホテルの名前をちゃんと把握していなかったようで、全然違う地域に行ったりUターンしたり迷走し続けました。英語で話しかけても通じず、「アイヤー」「ソーリー」などとつぶやく運転手さん。さびれた住宅街みたいなところなどを一瞬通ったり、袋小路にはまったりしましたが、何度かスマホの地図を見せたらやっとわかってくれて1時間ほどかかって到着。支払時はもちろんクレジットカードは非対応で現金が約3000円分(600台湾ドル)、一気に減ってしまいました。
でも、そのあと下がった交通運が上がるようなできごとがありました。ホテルから近くの漢神アリーナというデパートに行きたかったのですが、方向音痴なので道に迷ってしまいました。大通り沿いに停めたバイクの前に佇んでいた、地元の女性に道を聞いたところ、「私もそちらの方向に行くので乗せていきますよ」と英語と簡単な日本語とジェスチャーを交えて親切な提案が。女性はバイクの後ろ側をポンポンと叩いて乗るように指示してきました。とまどいながらもありがたく相伴させていただくことに。よく見ると台湾はバイク率が高くて、女性も生活の足として普通に乗っているようでした。考えてみたら日本でも経験したことがないバイク二人乗り。その女性は、自分のお腹につかまるように仕草で促してくれました。ポヨポヨしたお腹にそっと手を回すと、バイクは想像以上の速度で走り出しました。高雄の気温は高めでしたが、風が当たって爽快です。でもやはりカーブのときの重心のかかり具合や、車が大量に行き交う太い道路での走行に、軽い恐怖感が。海外旅行保険にちゃんと入っていなかったので、もしここで事故ったら詰む……と思いながらも、神のご加護でなんとか行きたいデパート前に到着。お礼にその女性に100台湾ドルを支払おうとしたのですが、かたくなに固持されました。台湾の人は親日家が多いのかもしれない、と、ありがたくも好意に甘えさせていただきました。
漢神アリーナはハイブランドから家電、食材、服飾雑貨からコスメ、家具までなんでも揃っています。驚いたのが、ここは豊洲のショッピングモールかと思うくらい、日本でも馴染みのあるブランドばかりだったこと。大戸屋、ビアードパパ、カルディ、nana’s green tea、そしてアパレルもユニクロやgreen label relaxing、ザラ、レスポ、KURA CHIKA by PORTERなど、価格帯は日本と同じくらいの印象です。全体的にリラックス感のあるほっこりしたファッションが主流のようでした。気候風土の影響もありそうです。
高雄ではお寺や宮などのパワースポットや、足つぼの治療院、漢方薬局などを回って、心身ともに充電できた感があります。観音菩薩のメッセージを伝える先生や、タンキーという子どもの神様の霊を降ろすシャーマンと会って、自分にも霊妙なエネルギーが宿ったのかもしれません。朝、ハプニングが発生しました。早朝、腕にサワサワという感触があり、半分夢の中でぼんやり見たら黒いものが見えました。なんと、巨大なゴキブリが腕を歩いていたのです! すぐにはねのけて、しばらく恐怖で震えていたのですが、ゴキブリが逃げていったほうを見たら、弱っているゴキプリがうずくまっていました。もしかして、最後、助けを求めてきたのかもしれません。そうは言っても、今まで生きてきた中でも最悪の目覚まし体験でした。あの足の触感は忘れることができません。
この部屋ではあと一泊あるので、ホテルの人にゴキブリをなんとかしてほしい、と一筆書くことにしました。最初チェックインしたときにわかったのですが、ホテルのフロントのスタッフはわりと若めでしたが、英語がほとんど通じませんでした。日本語がわかる男性が一人いましたが、そこまで流暢じゃない印象です。なので、グーグル翻訳を駆使して英語と中国語で一筆したためました。
「At first, I said I didn’t need my room cleaned, but this morning a huge cockroach crawled up my arm. So, could you please get rid of it?」
「最初は部屋の掃除は不要だと言ったのですが、今朝、大きなゴキブリが腕に登ってきました。お願いですから、駆除してもらえませんか?」という意味です。こちらを中国語でも翻訳し、併記しました。ゴキブリという漢字は、虫へんに章、虫へんに郎になることを学びました。手書きするために念のため漢字を調べたら、画像検索でゴキブリが表示される、という二次被害が発生。恐怖と戦いながらなんとか書き上げて、フロントに提出しました。
夜、ホテルに戻ったらフロントの人に丁重に謝罪されて、ハンドクリームやキャンドル、タンブラー、タオルなどの詰め合わせギフトをいただきました。災いが転じて福となった、ということでしょうか。台湾では、「禍福は糾える縄の如し」ということわざを実感させられました。幸不幸も陰陽も表裏一体。帰りの飛行機はまあまあ揺れましたが、さまざまなハプニングを経て、前よりも揺れない心になれたようです。
